キャンディー大臣

実家に帰省しているのだが、近くの公立中学校に藤の木が新しく植えられていて、サッカーゴールも新しくなり、だいぶ真新しくなっていて驚いた。最近、時の流れが早い。

俺の通っていた地元の公立中学校は、A小学校とB小学校の生徒からなる学年45人ほどの小規模な学校だった。俺は例外で、家の都合で引っ越しをしてきたため、地域の事情に疎かった。しかし、A小学校出身の木村(仮)とB小学校出身の山田(仮)は、仲が悪いことで知られていたらしい。地域として小規模だから、小学校が違うとはいえ、何かしらの交流があったようだ。

入学式で初登校したわけだが、俺は皆が知らない「転校生」のような立場だったので、緊張していた。担任の先生が適当に背の順で並ばせたが、俺は背が低かったほうで、前から木村→俺→山田という順に決められた。

体育館に入場して着席したのだが、木村と山田がなんだか睨み合っているではないか!そしたら、

山田「木村!お前はチビだ!」

木村「なんだとこの野郎!」

といった具合に、俺を挟んで取っ組み合いが始まった。緊張していた俺は黙って挟まれていた。担任の先生が止めに入ったが、そもそもなぜこの2人を同じクラスにしたのかという失態に気づいていたのだろうか。ちなみに学年は20人ほどの2クラス制だった。

その後も2人の「決闘」は続いた。暇さえあればいがみ合い、何度も問題を起こした。一番酷かったのは美術の時間だ。何が気に入らなかったのか、絵を描いていた山田の頭を木村が通りすがりに叩いた。すると、怒った山田が絵の具セットの水を木村にぶっかけ、(もちろん他の真面目な生徒にも被害が及び)、取っ組み合いが始まった。クラス中が混乱し、授業どころではなかった。すぐさま美術の先生が職員室に助けを求めに行った。(職員室と美術室は近かった。)2人の教員が駆けつけ、1人は木村を無理やり抱えて技術室に連れて行き、もう1人は山田を美術準備室に押し込んで外から施錠した。施錠された山田は壁を叩きながら「ここから出せよ!!」と叫んでいた。美術の先生の目は、まるで獣を扱うかのようだった。

給食の時間にも喧嘩が勃発した。山田が怒って牛乳を机に叩きつけ、牛乳パックが破裂して俺の制服がクリーニング行きになったこともある。本人は「そんなつもりじゃなかった」とかなり謝ってきたのだが…。

そんな2人も、2年生からは意図的に別のクラスに分けられ、担任の先生も生活指導の先生に変更された。学校も治安維持に全力を尽くし、それ以降は大きな騒ぎはなくなった。加えて、山田は部活動の卓球に打ち込むようになった。1年生の頃はどうしようもないゴロツキだった山田だが、部活動だけは真剣に取り組んでいた。3年生が引退した後は部活の主力として活躍し、顧問の計らいで部長にはならなかったものの、実力は認められていた。部活動に打ち込むにつれ、木村との決闘も馬鹿らしくなったのだろう。今思うと、山田は部活動を通じて精神的に成長していた。本来の部活動のあり方を体現した素晴らしい模範例だと感じる。

3年生になったある日、最後の部活動の大会である中体連を1週間後に控えた日のことだ。俺はサッカー部で、その日はサッカーノートを提出するため、部活終わりに職員室に立ち寄る必要があった。すると、山田も職員室から出てきた。2年生以降はクラスが別だったため、久しぶりに話しながら帰ることになった。すると山田が突然、

「俺、明日から修行の旅に出る!元気でな!」

と言い出した。ふざけているのだろうと思い、俺は「クリーニング代、いつ払うんだよ」と適当に返した。それが山田との最後の会話になるとは思いもしなかった。

翌日、朝の会で担任がこう言った。

「隣のクラスの山田君だが、家庭の事情で学校を辞めた。」

まさかと思った。前日まで普通に学校に来ていたのに、6月という時期に急に転校なんてあるのか?木村はガッツポーズをして喜んでいた。問題児ではあったが、俺は疑問と驚きでいっぱいだった。

後から聞いた話では、山田の親が彼の学校での行いを知り、更生施設に入れることを決めたそうだ。だが、山田は2年生以降は問題も少なく、部活動にも真剣に取り組んでいた。中体連1週間前に転校させるなんて、親も学校もどうかしていると感じた。

それから数年が経ち、成人式で再会することになった。地元の中学校の同級生が集まる中、黒尽くめのコートを着て長いつばの帽子を被り、片手に渦巻きキャンディーを舐める男がいた。間違いなく山田だった。その怪しげな姿に誰も話しかけられず、集合写真の隅っこにキャンディーを舐める彼が写り込んでいた。更生施設では何があったのだろうか。キャンディー大臣となった彼は、地元に帰ってきた。

彼は今も元気にしているだろうか。